ニュースレター 2018 9月
9月ですしね、お月見もあることだし・・ と考えていたらこういう話があったことを思い出しました。
むかし インドの山の中を ひとりの行者様が旅をして歩いていました。
行者様はだいぶ年を取っているようでしたが、長い間の修練で これほどの山道くらいは とくに困ることもなく 歩いていたのですが・・、ここ何日かはいつもよりもさらに険しい山道に、ゆっくりと体を横たえる場所もなく、ほんの少しの休息を取ってはまた歩き始める・・ということの繰り返しをしていました。
そのためでしょう、その夜、とうとうその行者様は、人など決して通らないような奥深い森の中で疲れ果てて倒れこんでしまいました。
どのくらいそうしていたのでしょう。
どこか遠くのほうでかちかちと何かを打ち合わせるような音がしています。
だれか 人が近くにいるのかもしれない、と 行者様は ゆっくりと顔を上げ、あたりをみまわしました。
見ると一匹のウサギが一生懸命行者様の持っていた火打石をつかって火をおこそうとしているところでした。
このウサギは道に倒れてすこしも動かない
人間を見つけたので、友達のサルとキツネを
呼んできて、どうしたらいいか話し合ったの
です。
「いきてるの?」「うん。いきてるとおもう。」「きっとおなかがすいてるんだよ。」「そうだね、きっとそうだ。」
「なにか食べるものがあるといいね。」
「じゃ、ぼく 川に行って魚を取ってくるよ。」
「ああそれはいいね。じゃ僕は木の実をたくさんとってこよう。」
「ぼくは 火をおこしておくよ。この人、きっとあったかいほうがいいだろうから・・。」
「そうだね。取ってきた魚も焼けるし、木の実もおいしく食べられる。じゃ頼んだよ。」
そんな話の後、キツネは川へ、サルは木の実を取りに森に出かけいきました。
後に残ったウサギは、あちこちから木切れを集め、行者様の近くに積んで 行者様の持っていた火打石を一生懸命打ち合わせて 何とか火をおこそうとしていたのですが、火は ウサギにとっては 怖いもの。
なかなか上手にできません。
「どれ、私がやろう。」
突然の行者様の声に ウサギはびっくりして 火打石を取り落としながら ぴょん!っと近くの草むらのむこうに跳ねのきました。
「この、薪は・・ おまえがつんでくれたのかね?」
行者様の優しい声がそっとウサギの耳に聞こえたので、ウサギは耳の先を草むらからちょいと除かせ、はっぱの間からその赤い目で そうっと行者様をみてみました。
行者様はカチカチと火打石を打ち合わせて、上手に薪に火をつけていました。
そして赤い炎がちらちらとあがり、まきがぱちぱちいってくるころ、でかけていたサルとキツネがそれぞれたくさんの木の実や丸々した魚を持って戻ってきまた。
「行者様、これをどうぞ。」
「 たくさん歩いてお疲れになられたのでしょう。どうぞ召し上がってください。」
行者様は 自分の前に差し出されたいろいろなおいしそうな木の実や魚をみて、とてもびっくりしていいました。
「ああ、これは とてもありがたい。お前たちの心遣いには 本当に 感謝するよ。」
そして 木の実を薪の隙間にいれ、魚を焼こうとしました。
そのとき、行者様の前にさっきのウサギがやってきていいました。
「行者様・・、申し訳ありません。私はサルさんやキツネさんのようにおいしい木の実も太った魚も取ることができません。それどころか行者様の体を温めるための火をおこすこともとても怖くてできませんでした。」
ウサギの目には透き通った涙が浮かんでいました。
「行者様、でも私も差し上げられるものがあります。どうぞ お受け取りください。」
そう言うか言わないかのうちに、ウサギは 火の中に飛び込んだのです。
キツネもサルも あっという間もありませんでした。それほど突然のことだったのす。赤い炎に包まれたウサギを助けたくてももうそれはサルにもキツネにもできませんでした。
するとそのとき 一緒にそれを見ていた行者様が火の中に手を突っ込んで、炎の中から 焼けたウサギを運び出しました。
「ウサギよ、お前の思いは確かに受け取った。私はお前にその礼をしよう。」
そういいながら 行者様の体はどんどん大きくなっていき、その頭や顔はもうすっかり雲の上に出てしまうほどになりました。
大きくなった行者様はかがんでひとつの山をすっかり握りとると、それをぎゅうっと押しつぶして丸い形にしたのです。
そしてその丸いものをぽ~んと空に放り投げるとそれは夜空にぽっかりと浮いて、とてもやさしく輝き始めました。
行者様は手を高く上げて輝く丸いものの上にウサギをのせていいました。
「お前はとても尊い行いをした。だから私は お前を永遠に輝く月に住まうことをその報いとして与えよう。」
こうして、月にはウサギがいるようになったということです。
院 長