東洋医学からみる鬱症状の原因
鬱(うつ)とは、もともと東洋医学の言葉です。意味は…「感情がとどこおって通じない」。ですから、憂鬱で気分が晴れず、波及してさまざまな症状がみられます。もちろん、直接の原因はストレスが関与します。しかし、慢性化して回復しにくくなるのは、他の様々な原因が絡みます。
ここでは、うつの主な症状である「不安感」「体のだるさ」、また「イライラ」「クヨクヨ」に焦点を当てて考えます。また、躁と鬱が混在する双極性障害(躁うつ病)にも切り込んでみましょう。うつと梅雨空との関係も必見です。
イライラ→肝臓→イライラ²
東洋医学の肝臓は、端的に言えば条達機能です。条達機能とは、のびのびと若木が真上に伸びるような自由闊達さです。そういう働きが人体にはあります。循環や新陳代謝・精神機能は、この働きによるところが少なくありません。イライラという感情は、この働きを妨げます。肝臓が条達できなくなってしまうと、些細な事でもイライラしやすくなり、ますます条達できなくなるという悪循環になります。
滞りを伸びやかにする治療を行います。
証…肝気鬱結
ツボ…肝兪・百会・行間・後渓など
クヨクヨ→脾臓→クヨクヨ²
東洋医学の脾臓は、消化機能・吸収機能・栄養機能です。これらが一体となって人体の各細胞は栄養を受け、活動が可能になります。口から入った様々な複雑多様な飲食物は、小腸の壁を境に、不用な残滓物と、有用な栄養分に仕分けされます。この「不用と有用を分ける力」は精神面にも影響します。脾臓の強い人は、複雑多様な世事を把握したうえで、有用な本質のみを仕分け、単純明快に割り切って捉えることができます。脾臓の弱い人は、この仕分けができず、クヨクヨと思い悩みます。クヨクヨ思い悩むと、脾臓を弱らせ、ますますクヨクヨしやすくなり、些細な事なのに大きな悩みと感じてしまいます。
脾臓を頑強にし、有用・無用の仕分けを復活させ、心身をさっぱりさせる治療を行います。
証…心脾両虚
ツボ…脾兪・胃兪・外関・中脘・三里など
双極性障害(躁うつ病)
イライラ↔クヨクヨ 肝臓↔脾臓
肝臓と脾臓はシーソー関係にあります。イライラして肝臓の条達が滞り、渋滞が始まる(肝気鬱結)と、その分、脾臓が弱くなります。イライラするかと思えば、急に落ち込む。落ち込みがましになると今度はまたイライラする。
証…肝気鬱結・心脾両虚のどちらが中心かを診断し治療。
ハイテンション↔クヨクヨ 胃腸↔脾臓
イライラすると過食に走る場合があります。食べることでイライラが落ち着くからです。ただし、過食は胃腸(脾臓の一部)に熱を持たせます。つまり、肝臓の熱(イライラ)が肝臓を離れ、胃腸に移ったということです。ここで大便とともに熱が外に排出できると良いのですが、排出できないと熱が胃腸にこもります。熱が胃腸にあると、イライラではなく、ハイテンションで見かけが元気な「躁」の状態が目立ってきます。
胃腸の熱が長期に渡ると、それを支える脾臓が次第に弱ります。すると食欲がなくなり、過食が落ち着くとともに、クヨクヨする状態…「鬱」の状態に移行します。
証…胃腸の熱・心脾両虚のどちらが中心かを診断し治療。
胃腸の熱を取るツボ…上巨虚など。
焦燥感 火→心臓
肝気鬱結で、肝臓が条達できないと、条達を失った肝臓は、気滞を生みます。気滞が長期化してこじれると、邪熱に変化します。肝臓という働きを邪熱が阻害する状態のことを、肝火と言います。肝火もまた、イライラが特徴です。肝火は容易に心臓に飛び火します。その状態を心火と言います。心臓は家、「こころ」は家主に例えることができます。心臓は「家」なわけですから、心火があるということは、家が火事をおこしたようなもの。家主である神は、家にいることができず、焦燥感が生じます。怒りっぽかったり、暴れたり、眠れなかったりします。
熱を取り去る治療を行います。
証…气郁化火証
ツボ…手の十井穴・督脈上の要穴・肝兪・後渓など。
漢方薬…丹栀逍遥散など
心火・肝火が長期化し、陰(クールダウンし落ち着かせる体力)を消耗すると、火を消し止める水が無くなったようなものなので、焦燥感その他の症状が慢性化します。
陰を補い、結果的に熱を取り去る治療を行います。
証…陰血不足
ツボ…照海・関元・腎兪・心兪・肝兪など