不眠症
東洋医学の不眠症のとらえ方
不眠とは、満足すべき睡眠がとれていないと自覚している状態です。不眠の病状は様々で、軽い場合は入眠困難で、いったん目が覚めると再度眠ることができなくなり、あるいは眠ったり目を覚ましたりを繰り返す程度ですが、重い場合には一晩中一睡もできなくなります。
中医学的な不眠症の考え方
中医学では現代医学と異なり、精神症状は身体症状と異質ものとは捉えず、精神と肉体を同じレベルで考えるのが特徴です。中医学的に考えられる不眠の原因としては、七情(人間の精神・心理活動のこと)がストレスや抑鬱、びっくりするなど感情の急激な変化によって乱される・過労や過度に怠惰な生活・慢性病による体力の消耗・暴飲暴食など食生活の不節制などが挙げられます。そして不眠と主に関係する臓腑は 「 心・肝・脾 」 の3つです。
<心>
中医学でいうところの「心」は西洋医学と同じ血液ポンプとしての役目に加えて、思考・精神作用の中枢とされています。
精神活動を安定させる(安神)ためにはこの「心」を養う栄養物である血や陰(体液)・気(陽)などが充実していなければならないと考えています。
これが不足すると、不眠が起きます。「心」は意識レベルと関係が深く、睡眠とは意識の動きと関わる生理活動ですから、睡眠の失調というのは「心」の機能と結び付けて考えられるわけです。
<肝>
「肝」は大量の血液を貯蔵している臓腑で、「心」とともに血と関係の深い臓腑です。
「心」は血に滋養されて活動を安定させています。しかし、憂鬱や激しい怒りによって「肝」を傷つけると、血を蓄える機能は失調してしまい、肝血(肝臓が貯蔵している血液)は減少するため熟睡ができなくなります。
この様に「心」の動きは「肝」の機能に影響されています。抑うつやいらいらが「肝」の乱れをもたらし、「心」の乱れに結びついて睡眠障害が起こりやすくなります。
「肝」は、落ち込んで気分がすぐれない、抑うつ状態になる、イライラする、妙に怒りっぽいという情緒の変化と関係します。
<脾>
考えすぎたり、心配ごとがあると食欲は減退した記憶はありませんか。考えすぎは「脾胃」の栄養を吸収して血や水分を作り全身に運ぶ機能を失調させるため、気血の生成が少なくなります。
「心」に届く血が不足すると「心神」は養分を失い、不安定状態の不眠が生じます。
気血を産む源である「脾」は「心」に影響を与えるため、心血の不足による不眠の症状が現れます。
情緒失調はこのように「心」・「肝」・「脾」の3臓腑の機能に影響を与え、不眠が生じます。
タイプ別の症状
心火
強い不眠、悶々として夜通し眠れないことが多い、 夢をよくみてすぐに目覚める、胸が暑苦しい・焦躁・動悸・顔面紅潮・口が苦いなどの症状がでます。 また、舌先がしみるように痛む・口内炎の多発・舌先が紅など上部の激しい興奮症状が見られます。
肝鬱化火
あれこれ考えたりいらいらして眠れない、夢をよくみて すぐ目が覚める・怒りっぽい・目の充血・頭痛・耳鳴り胸脇部が脹って苦しいなどの症状がでます。
胃気不和
なかなか寝つけず、夢をよくみてすぐに目が覚める。 腹が張る・げっぷ・腹痛などを伴います。
痰熱擾心
いらいらして寝つきが悪い、驚いて目を覚ます、夢をよくみる、口が苦い・吐き気・嘔吐・痰が多い・胸苦しい・黄色くべっとりとした舌苔などが見られます。
肝鬱血虚
いらいらして寝付けない、眠りが浅い、怒りっぽい、憂鬱、 ため息がよくでる、顔色につやがない、胸脇がはって苦しい、月経不順などの症状があります。
心脾両虚
眠りが浅く夢をよくみる、夜中に目が覚める、動悸、 ものわすれ、食欲不振、倦怠感、 日中に眠いなどの賞状があります。
心陰虚
寝つきが悪い、眠りが浅い、夢をよくみる、 すぐに目が覚める、動悸、焦燥感、ものわすれ、手足のほてり、顔面部の熱感、 口内炎などの症状があります。
心腎不交
焦躁感があって夜通し眠れない、動悸・口内炎 ・頭のふらつき・熱感・のどの乾き・腰や膝がだるく無力などがあります。