ニュースレターR5年 4月号
東洋医学の世界には、自然界に存在するもの全てを「陰」と「陽」に分類する考え方があります。季節の移り変わりとともに陰陽のバランスは変化しており、日本では夏至に「陽」が、冬至に「陰」が極まるというサイクルを繰り返しています。
3月は、冬のあいだ優勢だった「陰」が少しずつ減り、「陽」が一気にあふれてくる季節のはじまり。そこかしこに花々が咲き乱れ、木々も一斉に芽吹いてくる明るい季節ですが、そんな季節の陰陽バランスの変化に私たちの心と体も引っ張られて影響を受け始めます。
さらに、4月からは進学や就職、転勤、異動、引っ越し、プロジェクトのスタートなど、社会生活においてもなにかと慌ただしくなる時節でもあるので、心にも体にもアンバランスが生じやすい季節としてとらえることができます。
実は、私たちの体の中にも陰陽要素は存在していて、心身ともに健やかに過ごせる理想的な陰陽バランスが取れた状態を「陰平陽秘(いんへいようひ)」と呼びます。どちらかに傾きすぎてしまうと不調が生じやすくなりますが、事前の知識があればそれらを緩和することができます。「養生」とは、いわば先回りの健康法なのです。
「陽」がグングン満ちてくることで、私たちの五臓六腑も全体的に活性化してきます。「肝」も活性化し、冬のあいだに体中に溜め込んでしまった不要なもの(老廃物や脂肪など)をとにかく一気に解毒しようとしてフル稼働、疲弊しやすい状況を強いられています。「肝」が疲れてしまうと、本来の機能にあれこれ不調が現れてきます。
例えば、「肝」にたっぷり貯蔵されているはずの「血」が不足することで精神的に安定せず、イライラや不眠、気持ちの揺らぎなどが生じやすくなったり、めぐりが滞ることで肩こりや筋がつりやすくなったりします。
また、春の「陽」の気の急激な上昇も手伝って、「血」が体の上部に溢れ出して停滞しやすいので、頭痛や鼻詰まり、めまいやふらつきなどの「上半身の症状」が出やすくなるのもこの季節の特徴のひとつです。花粉症の症状の中でも、目の充血やかゆみ、鼻詰まり、喉の炎症など体の上部に「血」が停滞することで起きる症状は、この「肝」の乱れに由来するものとされています。
「肝」の解毒の機能がうまくいかなくなることで、体内に余分な老廃物などが蓄積されて、重だるい疲労感を感じやすくなる場合もあります。
春の養生で大切なことは、まずはこの「肝」の調子を整えていくことです。「血」を満たす性質のあるほうれん草やナツメ、アサリ、牡蠣などの食材を意識的に食べましょう。
また、「肝」という臓器が好む味である「酸味」を上手に日々の食事に取り入れていくことも有効です。「酸味」は、春に乱れやすい「肝」の働きを正常に戻して「肝」の疲弊を労うのに役立ちます。
酸味の代表である柑橘系のフルーツは「気」のめぐりをよくするとされているので、紅茶をレモンティーにする、フライにレモンをかけてみる、サラダにグレープフルーツを散らしてみるなど、ちょっとしたところに取り入れてみてもいいですね。
アボカドは「肝」の働きを高めて余分なものの排出を助け、「気」を補って疲労を回復、新陳代謝をサポートする性質のある食材。サラダやパスタなどにアボカドを添える、生のアボカドにレモン汁を加えれば「肝」を整える「酸味」も補えます。
質のよい「血」をしっかり満たすこと、夜更かしやストレスなどによる「血」の無駄遣いをしないこと、めぐりを整えていくことは「肝」の働きをサポートする重要なキーワードになります。
食事以外にも、「なるべく決まった時間帯に寝起きする」「軽い運動をする」「ストレスを溜めないようにする」「アロマなど心地よい香りでリラックスして、肝の高ぶりを鎮める」などの習慣を取り入れることをおすすめします。
春の「陽」の上昇によって内臓が活性化するわけですから、見方を変えると、冬に溜め込んでしまった余分な水分や脂肪分、老廃物などを体外へ排出しやすくなる時期、すなわちデトックスのチャンスでもあるととらえることができます。私たちの体は元々、自分に不要なものを排出する力を持っているので、うまくその力を利用していけば、体に負担をかけずにデトックスすることが可能です。
この時期に生じやすいイライラや不眠、肩こりやむくみなどのプチ不調は、実は心と体からのサインです。体の中で生じる小さなアンバランスがプチ不調という形でメッセージを出しているのです。心と体からのサインを読み解き、「今の自分に一番よいもの」を意識的に選んで食べることでバランスをとり、快適な春時間を過ごしましょう。
院 長